「金の糸について」

2010年06月01日

近年、金の糸を用いた若返り手術を行っている美容医療施設が急増し、ホームページにはその効果を謳っている広告が氾濫しております。従いまして、日本美容医療協会としてはこのような事態を看過することが出来ず、現在分かっている範囲でいわゆる金の糸についての情報を提供致します。

◆1. 日本美容医療協会としての見解

 現時点においては金の糸の治療効果に明確なエビデンス(学問的証拠)はありません。そのため、日本美容医療協会としてはこれを正式な治療法としてお勧めすることは出来ません。
 かといって、金の糸を用いた治療法を完全に否定する根拠もありません。従って金の糸療法なるものをお受けになる患者さんは、必ず下記に述べるような説明を医師から十分に受け、納得された上でインフォームドコンセント用紙(同意書)に署名をし、自己責任の下に施術をお受け下さい。もしもこのような説明がないようでしたら、そのようなクリニックでの治療はお受けにならない方が賢明です。

◆2. 作用機序と期待される効果

 金の糸アンチエイジング協会(いわゆる公益な協会ではなく、あくまでも個人クリニックが設立している協会です)のHPには、下記のように記載されております。
 「金の糸を皮膚の下に入れることによって「異物が入ってきた」と体が察知し、それらを追い出そうとします。すると、免疫細胞であるマクロファージを運ぶための毛細血管が大量に伸びます。運ばれたマクロファージの活動により放出された物質が刺激となり、コラーゲンの内部にある線維芽細胞が刺激され、それによって新たなコラーゲンやエラスチン、ヒアルロン酸などを作り出そうと働き出します。活発な新陳代謝が繰り返されるため、真皮の機能が活性化され、肌自体が若返ってゆきます。そして、血色がよくなり、ツヤや弾力が蘇り、シワやたるみが徐々に減少してゆきます。肌のターンオーバーサイクルも正常化するため、メラニンの生成が抑えられ、シミやくすみにも効果が発揮されます。美白効果も期待できるそうです。そして、イオン交換作用も重要なポイントで、体の中に入った金の糸が真皮内の電位を高めることにより、栄養素は細胞内に吸収されやすくなります。そして、必要のないものは毛細血管を通って排出されるようになります。それによって、衰えた免疫力が取り戻され、健康的な肌に蘇ります。」
 上記の作用機序からは、次のような効果が読み取れます。
1)肌の若返り、2)シワやたるみの減少、3)美白効果、4)栄養素が細胞内に吸収されやすくなる。更にはアトピー性皮膚炎にも効果があるようなことを謳っているクリニックもあります。
 しかし注意しなくてはならないことは、上記の作用機序や効果を裏付ける、信頼できる文献(いわゆる科学的根拠エビデンス)は見当たりません。

◆3. 合併症、後遺症等

 金の糸の合併症、後遺症としては下記のようなことが考えられます。
  1. 純金は生体反応がもっとも少ない金属のひとつであり、無菌の100%純金であればこれを皮下に埋入すること自体による合併症はほとんどないと考えられます。しかし、例えいわゆる純金(日本では純度が99.99%以上のものを24K、すなわち純金といっても良いとされています)であっても、わずかとはいえ不純物が含まれており、また18K(不純物が25%)の製品(糸)も出まわっていると言われています。たとえ医師であっても、使っている金の糸が24金か18金かは区別できません。特にこれらの不純物は生体にとって異物反応によるアレルギーを惹起したり、また異物であるが故に感染の危険性は否定できません。実際にある大学の形成外科外来には、金の糸を埋入された後に顔面が真っ赤に腫れた患者さんが受診されたというお話も聞いております。また、これらの金の糸は厚生労働省から正式に薬事の承認を取得した製品ではありません。従ってあくまでも医師個人の裁量権の下に使用されています。
    医療における裁量権とは:治療行為において医師個人が自由に裁断できる権利を言います。但し前提として、医師が患者さんにそのリスクも含めて全ての情報を正しく伝えた上で、患者さんの自己決定権を尊重し、同意書に署名をされた上で実行される必要があります。
  2. 異物は体内で移動することがありますので、金の糸が皮膚から露出してくることがあり得ます。
  3. 一旦埋入された金の糸を完全に抜き取ることはほぼ不可能です。
  4. 術後に凹凸やしこりを触れたり、発赤や腫脹を認めることがあるようです。これは1か月位で消失するとされていますが、長期にわたって消失しない症例も日本美容外科学会で報告されています。

◆4. 金の糸と画像診断

  1. レントゲン写真、CTやMRIといった画像診断を受けられる方は、必ず医師と放射線技師に申告をして下さい。
  2. 埋入部のレントゲン写真、CTやMRIの写真には、金の糸が写ってしまうことがあります(写真参照)。但し、金の糸自体が画像診断の障害になることは稀のようです。
     
  3. MRIは核磁気共鳴 (nuclear magnetic resonance, NMR) 現象を利用して生体内の内部情報を画像化する方法で、撮影時には強力な磁気を発生します。従って特にMRIの撮影時には必ず申告をして下さい。体内に金属が埋入されている場合は、金属が移動したり熱を発生することもあり、時には撮影を拒否される場合も考えられます。これにより、悪性腫瘍の早期発見のチャンスを逃す可能性があります。
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